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平爾ー序章ー
***
真っ白に積もった雪の上に赤い花弁がハラハラと落ちて行く。
そこがどこだったかも、その前後の記憶も曖昧ではっきりしない。
夢かも知れない
花の微かな香り
雪の玉を握った手の冷たさ
痛む頬
生垣のそばに立っていた女の子
積もった雪の上に散った赤い花弁
いや、花びらでは無かったのだろうか。
花びらだったはずの赤いそれは、雪の上に落ちると滲んで淡く白い雪を染めた。
深紅から淡い薄紅色へと、花びらのように。
とても綺麗で、綺麗で、見蕩れていたのだと思う。
押し殺した嗚咽が聞こえて
女の子がしゃがみ込んで『お母さん』と泣いていた。
血?切った?
一緒にしゃがんで顔を覗き込み、肩に手を添える僕。
だが、女の子はくるっと背中を向けてまた『お母さん』と泣くだけだった。
僕じゃだめなんだ。
僕じゃ……
この子の母親を探しに行かなくちゃ。
その後は覚えていない。
覚えていないのだが……
記憶なのか夢なのか分からないその部分だけ、やけに鮮明に蘇り、こびり付いたように消えてくれない。
女の子の拒否が自分の中を怒りと悲しみでいっぱいにした事も。
***
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