第7章  六本のバラ(続き)

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しかも、手も握らなかったといえども、 私が田村と初めて出会った頃は、二十歳を過ぎたばかり。 そんな肌など、たとえ天地がひっくり返ろうと今の私には望みようがない。 その現実が、このところ私の無意識な溜息を誘い出している。 しかし、 だけど――。 私は、マグを口元に運びかけ、思わず己に呆れ返った。 ちょっと待ってよ。私たち、キスもしてないのよ?  なのに、私ったら……。 まるっきり、彼とそうなる前提じゃない。 っていうか、彼がそうしてくるの期待してるみたい。 「もう、バッカみたい!」 あまりに小娘のような自分の反応と、 それでも、どこか戸惑いと期待が拭いきれない自分。 それに、なぜか腹が立ってくる。 ところが、その不安は、私が心の準備などする余裕もないほど 唐突に、そして素早く現実として姿になった。
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