第7章  六本のバラ(続き)

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比較的、温暖なこの辺りでも、ようやく秋が深まってきた。 木々は、きれいに色づき、 気の早いものは、既にその葉を落として冬支度を始める。 前庭や小道脇の草むらでは、つい先日まで日暮れと共に大オーケストラで その音を競い合っていた秋の虫たちも、 わずかにアースカラーに変わり始めた草の陰で、 いつの間にか、ほとんど姿を消していた。 そして、この時期になると滝嶋は、すっかり冬支度を要求してくる。 私は、短くなった昼の間は、 陽だまりを追うようにして彼女のベッドを移動してやり、 日暮れと共に、彼女のベッドの底に入れた電気行火に火を入れてやる。 しかし、猫にとっては冷え冷えとした初冬でも、 まだ私にとっては、空気の澄んだ心地よい冷たさを味わえる晩秋。 そして、その巡った季節を物語るように、 カレンダーは、既に残りを二枚だけにしていた。
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