27人が本棚に入れています
本棚に追加
ところが、言葉が続かなくなった私とは逆に、
彼の声は、一気に明るさを取り戻した。
「じゃ、行っていい?」
「えっ、あ、うん……」
そして続いた彼の言葉に、一瞬、私はポカンとする。
「それがさ、蟹なんだ」
「カニ?」
「うん! 美味い蟹が手に入るんだ」
緊張に縮んでいた私の心臓が、あまりにも色気のないことに
ホッと息を吹き返す。
しかし、そんな私の事情など彼が知らぬのは当然のこと。
「実はね、去年バイクで走りに行って、知り合いになった漁師さんがいてさ。
その人が、蟹が解禁になったから送ってくれるって。
この週末に、届けるからって。だからさ、一緒に食おうよ」
最初のコメントを投稿しよう!