第7章  六本のバラ(続き)

7/17
前へ
/38ページ
次へ
ところが、言葉が続かなくなった私とは逆に、 彼の声は、一気に明るさを取り戻した。 「じゃ、行っていい?」 「えっ、あ、うん……」 そして続いた彼の言葉に、一瞬、私はポカンとする。 「それがさ、蟹なんだ」 「カニ?」 「うん! 美味い蟹が手に入るんだ」 緊張に縮んでいた私の心臓が、あまりにも色気のないことに ホッと息を吹き返す。 しかし、そんな私の事情など彼が知らぬのは当然のこと。 「実はね、去年バイクで走りに行って、知り合いになった漁師さんがいてさ。 その人が、蟹が解禁になったから送ってくれるって。 この週末に、届けるからって。だからさ、一緒に食おうよ」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加