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電話の向こうの彼は、文字通りにイソイソとして、
飛び上がらんばかりの喜びをありありと浮かべている。
カニ……。
胸の内で、小さく繰り返した。そして、
ふっ……。
途端に、なんだか自分の自意識過剰さかげんが可笑しくなって、
小さく笑いが零れ出る。
「でも、いいの? 他に持っていく所があるんじゃない?」
「平気、平気。必要なら、直送してもらうからさ。
あっ、まさか、蟹は苦手じゃないよね?」
彼の声が、ちょっと心配を滲ませる。
私は、わずかにかぶりを振り「うん、大好き」と答えた。
口元は、あまりにも無邪気な彼に、
自然に、苦笑と可笑しさと安堵がない交ぜになって綻んでいた。
しかしこれは、やはり私の不安を現実にする序章だった。
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