第7章  六本のバラ(続き)

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電話の向こうの彼は、文字通りにイソイソとして、 飛び上がらんばかりの喜びをありありと浮かべている。 カニ……。 胸の内で、小さく繰り返した。そして、 ふっ……。 途端に、なんだか自分の自意識過剰さかげんが可笑しくなって、 小さく笑いが零れ出る。 「でも、いいの? 他に持っていく所があるんじゃない?」 「平気、平気。必要なら、直送してもらうからさ。 あっ、まさか、蟹は苦手じゃないよね?」 彼の声が、ちょっと心配を滲ませる。 私は、わずかにかぶりを振り「うん、大好き」と答えた。 口元は、あまりにも無邪気な彼に、 自然に、苦笑と可笑しさと安堵がない交ぜになって綻んでいた。 しかしこれは、やはり私の不安を現実にする序章だった。
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