第0章 どうせ、もう戻れない

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四歳の夏、ある少女に目を奪われた。 もちろん物理的にじゃない。 だけど身体全体がおかしくなったみたいに、変な高ぶりが起きた。 息をするのも忘れ、世界が一気に広がる音が聞こえた。 数メートル程離れた場所で小さな少女が聖剣を手にし、巨大なドラゴンに立ち向かう。 その場にいた誰もが胸を高鳴らせ、目を輝かせた。 不敵に笑う彼女を私は一生忘れることはないだろう。 精霊を纏い、使役する。 彼女は誰よりも強く、美しかった。 だから私は憧れてしまった、自分と真反対の彼女に。 だけど後から考えると、この記憶は悪夢でしかなかったのだ。 少女の名は皇 麟(すめらぎ りん)。 後の東国、日本の王女となる者である。 そして私の名前は山田 花子。 平凡な人間……になるはずだったのだ。 馬鹿な夢を抱いた四歳の夏までは。
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