第一章 入学式

2/2
前へ
/4ページ
次へ
「だーかーらー、私は神奏学園に行きたいって何度も言ってるでしょ!」 精霊学区に繋がる駅のホームで、女の喚き声が聞こえたので私は何とは無しにそちらに視線を向けた。 宙に浮くBOXに目を通し、入学式までまだ時間があることを確認して騒ぎの中に飛び込む。 「あの、どうかしたんですか?」 私が声を掛けると先程の声の主の女性と駅員がこちらに顔を向けた。 女性の顔を見て思わず息を飲んだ。 その女性の顔は今まで見たことのないくらい美しかった。 天使かもしれない…。 「あ"ぁ?手前誰だよ」 あっ、天使じゃなかった。 女性は顔を歪め、ギロッと私を睨みつけた。 「えーっと、私は今年度から神奏学園に入学する者で、山田花子と申します」 天使の外見を持つ鬼が怖いので、深々と頭を下げて個人情報を暴露。 その時、頭上から下品な笑い声が聞こえた。 「ブハッ!マジか!山田花子ってブハハハハッ!」 その笑い声の主は天使の外見をお待ちの鬼さんだった。 何が面白いのか目尻に涙を溜めて笑う。 「履歴書の見本の名前じぁねぇか!ブハハハハッ!」 ひどい人です。 さすが天使の外見をお持ちの鬼さんです。 「それより何を揉めていらっしゃったのですか?」 「んぁ?うーんと、何だっけ?」 天使の…以下略さんは考える振りをして首を傾げだが、すぐに考えるのを止め、駅員に話を振った。 あんなに騒いでいたのにそれはないでしょっ!とツッコミたくなったが怖いので止める。 「このお客さんがBOXを忘れらしくて…」 駅員が額の汗をいそいそと拭きながら、しどろもどろに説明してくれた。 ああ、そういうことか。 私は納得し、彼女の方に向きを変え。 「それでは、私入学式に遅れますので退散させていただきます!」 ニコリと笑顔を額に貼り付け、くるりと足の向きを変え、竜車にダッシュ。 呆気に取られたのか、天使の外見をお持ちの鬼さんはポカーンと私を見送り。 私が丁度竜車に乗り込んだのと同時にハッとして後ろで怒鳴り始めていた。 ごめんなさい、BOXが無い人は絶対に竜車に乗れない決まりなんです。 私を怒る前に国の憲法に怒ってください。 ぐんぐんと空高く上っていく竜車から顔を出して下の景色を見たながら私は心の中で謝罪した。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加