夢から覚めて、現実を見ろ

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 翌朝、少しばかり寝不足の頭で出勤した。昼過ぎに、彼からラインが届いた。 『鍵壊れたの? 部屋に入れなかったから自宅にいる。何時にこれそう? 朝から何も食べてないんだ』  十二月が、どれほど忙しいか忘れているのだろうか。具合が悪そうなら、酷くなる前にレトルトの粥やスポーツ飲料の買い出しは可能だ。 『仕事が忙しいので行けません』。と返信すると、すぐに折り返しがきた。 『俺が風邪引いてるんだよ? 会社おやすみするとかさー。早退とかさ。そういうの考えないわけ?』  脳の細胞が熱で溶けだしているのだろう。それとも死滅したのかもしれない。若干の憐れみを抱き、軽く頭を振った。 『無関係な方には、まったく考えません。どうぞお大事に』 その後、スマホは放置し、仕事にいそしんだ。職場への電話は取りつぎを拒否するよう頼んでいる。実に清々しい気分だった。家事をしないホテル暮らしも、快適だ。放っておいても掃除され、ベッドメイキングされている。食事も和食、洋食が揃っている。この一年おちおちだべってもいられない時間だったのだ。この際、大掃除も業者に委託してしまおうと思い、手配を済ませた。駆け込みの分、割高だったが、時間を買ったと思えば安い買い物だ。  二日後、警察から連絡があった。聞けば、部屋の周りをうろつき、ドアを叩いて叫び、ついには警察に通報されたそうだ。 『彼女が行方不明だと仰っていますが……』  電話の向こうが若干迷惑そうにいった。警察に同情を禁じ得ない。 「私は無事です。彼の荷物は送りましたし、私の部屋に残したものはありません。執着するようでしたら、ストーカー被害を出しに伺いますが」  そういうと、分かりました。と電話は切れた。そして、私の修羅場は、年内に無事終焉を迎えた。何度かメールは届いたが、脳内に花でも咲いたか? ハムスターでも住まわせたか? としか思えないロマンティックな内容で、幼児から思春期を迎えたのは分かった。できるだけ早く、思春期から大人の階段を登るよう、心から願い、忘却の彼方へ記憶を流した。
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