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なぜ降りようと思ったのかは自分でも分からない。
気付いた時には、乗っていた電車は既に走り出していた。もう、ホームからは電車の後ろさえも見えない。
時刻表を見て後悔する。次に来るのは20分後だ。東京から少し外れただけなのに、案外本数が少ない。
そんなことすら忘れてしまったのか。
今日訪れる予定だった実家に、少し遅れると連絡を入れる。この年になって初めて、親は理由を聞いてこなくなった。さすがに聞かれると恥ずかしい事もある。
待合室の中もエアコンが効いていないのか、外気と気温の大差がなかった。
寒さに耐えかねて、太志は改札を出て歩き出した。
あれから7年、今はサラリーマンとしてごく平凡な日々を送っているのだが、恋愛にはとんとご無沙汰してしまっていた。
――正確には、しようとも思っていない。
別に全くモテないから諦めたというわけでもないのだが、(それはきっぱりと否定したい)社会人になってから1度だけされた告白も断ってしまった。
最後の彼女に振られたショックを引きずっているのかな、と思う。
駅前の商店街を抜けて、かつての通学路をたどってみる。
商店街はシャッター通りになっていた。
いたるところをスプレーでカラフルに落書きされているが、かえってその方が彩りがあるからか消された痕跡もない。
そういえば近くに美大があった。
まるでヤンキーのたまり場のようなのに、落書きされたシャッターの真ん中に『ここは浮浪者のたまり場ではありません』と張り紙されてあるものだからたまらない。
実にシュールだ。
もしこれを彼女が見たら…と、記憶が何年も更新されていない横顔を思い浮かべる。
きっとスマホを取り出して、「ヤバい」なんて言いながらパシャパシャと写真に収めるのだろう。
――高校生のころの君なら。
今はどこで何をしている?
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