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久しぶりの東京は、以前と少しも変わらなかった。街の喧騒も、ほんのり密度を増す空気も、何もかも。 電車を乗り継いで、少し郊外に抜ける。改札を出ると、しばらくは歩かなくてはならなかった。肌寒いけれど、タクシーを使う気にはならない。すべての光景をしっかりと見ておきたかったし、心の準備もしていたかった。 街の明かりがぽつぽつと減っていくと、煉瓦造りのお洒落な建物が見えてくる。周りを綺麗に手入れされた緑に囲まれたレストランを前にして、急激にあの頃の感覚が蘇ってきた。覚悟はしている。ここに来るのはこれが最後だ。 時刻はまだ18時を回ったところだった。客足はまばらだ。もう予約でいっぱいだったあの頃から二年も経っていればそんなものかもしれない。入り口脇にある白いアンティーク調の椅子に腰掛ける。予約なんてしていなかった。そして、予約の確認もするつもりはなかった。もしも、彼が現れたなら…。それだけを思って、待ち続けることを決めてきたのだ。 「あの、お客様。ご予約の方でしょうか」 一時間ほど経った頃だろうか。見かねた店員がこちらに顔を出していた。 「あ、いえ…人を待っているので」 お店に迷惑を掛けていたら申し訳ないと思いながらも、それ以上を口にはしなかった。店員は訝しげにこちらを見ながら、外は寒いのでよろしければ、と膝掛けを貸してくれた。親切な店員の配慮に申し訳なさが募った。 3年前、彼と予約をしたのは20時だった。私が残業続きだったから、それに合わせて遅めに予約を取ってくれていたのだろう。
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