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空を見上げると、一粒の白いものが視界に入った。 「え…雪?」 まだ12月にもなっていないのに、と思い目を凝らすと、その粒はふわりと浮遊していた。 「なんだ、雪虫か…」 おしりに雪のような白い綿をくっつけた虫。もうすぐ冬が来るよ、と教えてくれているようだった。 溜め息を一つ吐いて、手に息を吹きかける。 どれほど時間が経ったのだろう。そう思って腕時計を見た。もう何組もの人がレストランへ入っていくのを見ていた。凍えそうなほどの寒さを感じながら、こちらをチラチラと見ていく人たちから視線を逸らしては、足音が聞こえるたびにまた顔を上げていた。 ふと、足音が聞こえる。視線を上げることなく、足元を見た。スラックスらしきズボンと、黒の革靴が視界に入る。そういえば、彼の仕事着はいつもこんな感じだったな。そんなことを思って期待に胸を弾ませる。 「あ…」 一瞬、声を掛けそうになった。 「え?」 相手の男性が怪訝そうにこちらを見る。 「あ、すみません、人違いで…」 髪型もどこか似ていたがまったくの別人で、心が冷えていく。恥ずかしさが入り混じりながらも、頭を下げてそのまま俯いた。 当然だ。彼が来たとしても、仕事帰りでもなんでもない。もう東京を離れているはずの彼が、今も同じ風貌でいるかなんて分からない。期待よりも、不安の方が大きかった。これは私の自己満足だ。吹っ切るためのきっかけがほしいだけかもしれない。自問自答を繰り返しながら、彼が来なかったときの保険を自分の中で模索していた。
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