5人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ティッシュボックスのカバー
ある日気づくと、居間のテーブルに置かれているティッシュボックスのカバーが変わっていた。
俺はいらないと思っているのだが、母親が小物好きで、こういう品をよく使うのだ。
それ自体は本人の趣味嗜好だし、害になる訳でもない。だから何を言うこともなかったのだが、カバーが変わってから、あれと思うことが多くなった。
家族の使用ペースは特に変わっていないのに、ティッシュの減りがやけに早いのだ。それに、引き出したティッシュがやたらとよれていることがある。
ティッシュボックス自体は、近くのホームセンターでいつも同じ物を購入しているので、中身が少ない物を使っているという訳ではない。
とはいえ、自宅の今のティッシュなど、家族以外で使う者もいないし、これだけを盗って行く侵入者がいる筈もない。だから気のせいだと思っていたのだが、ある日理由が判明した。
鼻をかみたくなってティッシュに手を伸ばしたら、妙に出が悪かった。
引っかかる構造でもないのに変だなと思いながら一枚引き抜く。その直後、ふと気になって、俺はティッシュ箱に指を突っ込んだ。
箱の中で一枚ティッシュをつまみ、ゆっくりとそれを引っ張り出す。その途中…ボックスを包むカバーティッシュが触れた瞬間、上に抜こうとしていたティッシュが真横に引っ張られた。
反射で手を離すと、カバーとボックスの間にティッシュは消えた。その代わりに指先には、さっきの一枚を取る時に引っ張り上げられた次の一枚が触れていた。
慌ててカバーを外してみたが、抜かれて行った筈のティッシュはどこにもない。ただ、カバー裏にちぎれた紙片の残骸があることだけが見て取れた。
すぐにカバーを外すと、俺はそれを鋏で切り刻み、ビニール袋に入れて、申し訳ないと思ったが、近所のコンビニのゴミ箱に捨ててきた。
母親には、不注意で汚してしまい、もうどうしようもなかったので捨ててしまったと嘘をついた。その時には少し残念がられたが、特に思い入れのある品ではなかったらしく、ほとんど気にしていなかったからよかったと思う。
この件以来、我が家のティッシュの減りは以前通りだ。
あれが何だったのかは知らないし知りたくもないけれど、見知らぬ小物が使われるようになってから、生活に違和感が出た時は、小物を疑ってみようと俺は心に誓っている。
ティッシュボックスのカバー…完
最初のコメントを投稿しよう!