1 邂

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 が、その前に白い布が衣装だとわかる。  ……ということは衣装の中に人がいることも同時にわかる。  それで怯むが、こんな距離から逆方向に引き返すのもまた不自然。  ぼくがまた呪いをかけられたように固まってしまう。  すると背後の気配に気づいたのか、白い衣装を纏い、口にはマスクをした人がこちらを向く。  ぼくの姿を認識する。  目の上すれすれのところで揃えられた髪の下で両目が驚いたように見開かれる。  ついで振り向くのを止め、背を低くする。  近づいてわかったが、白い衣装を纏った人が木製のベンチに座ったのだ。  それで背が低くなる。  ベンチの上には白い衣装の人の持ち物らしいリュック。  つまり白い衣装を纏った人は妖精ではない。  間違いなく人なのだ。  口にマスクもしていることだし……。  ここまで歩いて来たとしか思えない。  リュックの中に衣装を入れ……。  里山までの移動手段は電車だろうか。  近隣の住人ならば徒歩で可能だろうが、そうでなければ移動は電車かタクシーになる。  あるいは自家用車かもしれないが、あのときぼくはそう考えない。  電車やタクシーでは移動姿が妖精では目立ち過ぎると考える。  が、事実移動が自家用車の場合、リュックは必要なのか、そうではないのか。  今でも考えると混乱する。  とにかくぼくはその人に近づき、木製ベンチに座るその人の斜交いに姿勢良く立つ。  隣に座らなかったのも、正面に立たなかったのも、気後れから。  その人は当然のように、ぼくを無視する。  それで気不味い時が流れる。  普段のぼくはわりと気さくだ。  人に声をかけることを厭わない。  声をかけようとする相手との間に気不味い雰囲気が漂うなら尚更だ。  けれども、あのときは口が強張る。  自分が自分ではないように思える。  けれども地の自分というのは出るもので、時間はかかるが、ぼくがその人に話しかける。 「おはようございます。随分と早起きですね。まだ朝の七時前ですよ」  ぼくの言葉に顔を上げはしたものの、その人は言葉を発しない。  だから、ぼくも言葉に詰まる。  苦し紛れに、 「きれいな衣装ですね」  とぼくが褒めると、その人の硬さが僅かに取れる。  嬉しがっている様子はないが、ぼくを危険人物と見做すことを止めたのかもしれない。  そんな雰囲気の変化に後押しされ、
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