1 邂

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「よく、ここには来るのですか。お会いするのは今日が初めてですが……」  その人に問うが答えはない。  ぼくの方を見てキョトンとする。  喋る気がないのか、それとも本当に口が利けないのか。  ぼくが途方に暮れると不意にその人が立ち上がり、ぼくに向かい、サヨナラの仕種をする。  小振りな胸の前で両手をバイバイと振ったのだ。  胸は小さいが身長は結構あり、男としては小柄な一六五センチメートル弱のぼくより頭半分は大きい。  そんな白い衣装の人がするサヨナラの行為が続いている。  表情は、ありがたいことに怒っていないが、迷惑なのは事実かもしれない。  それで愛想笑いを浮かべつつ、ぼくが去り際に一つ尋ねる。 「またあなたを見かけたら、話しかけても良いですか」  するとその人は目許に笑みを浮かべつつ、けれどもぼくの質問には答えず手を振り続ける。  土曜の朝の出来事だ。  あの日から、ぼくは変わったのだろうか。
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