10.傷。

4/19
前へ
/19ページ
次へ
一時間近く経った頃、エレベーターの開く音が聞こえてきた。 乾いた足音が次第に大きくなって、それは私が待ち望んでいたことだった。 彼だ! 彼が帰ってきた! 勢いよく立ち上がり、足音が聞こえる方へ顔を向けた瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けた。 私の視界にいるには、楢崎くんと彼の腕に寄り添う美桜さんの姿だった。 「……」 ズルズルと鞄が腕から落下した。 互いに口は開かない。 沈黙の時間が続いて、呆然と立ち尽くしていると、先に口を開いたのは美桜さんだった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

497人が本棚に入れています
本棚に追加