10.傷。

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彼は私の声を無視して、力強く両腕を押さえた。 抵抗する私を気にすることもなく、唇を首筋へと動かしていく。 拒みたくて、腕を動かしてみてもビクともしない。 怖い…。 こんなの、楢崎くんじゃない。 「お願い…止めて…」 そう言っても、彼は動きを止めることなく、唇をさらに下へと動かしていくいく。 どうしてこんなことするの? 私が、頼らなかったからいけないの? どうしたら、いつもの彼に戻るの? お願い、全部話すから。 だから、 私の話を聞いて。 「こんなの嫌。お願…んっ」 そんな私の言葉を遮るように無理やり唇を塞がれた。 「…んっ…やっ!」 「…いって…」 「あ……」 彼の唇から真っ赤な血が流れていくのを見てハッとした。 「ご、ごめんっ…」 彼は何も言わずに、流れる血を親指で雑に拭った。
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