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夢、謳歌
春紅葉。或いは朱緋の若葉。
時にある。物にある。過ぎた冬を喜ぶように、赤い木の葉を付ける草葉が。けれど、それは結局春の紅葉で秋のそれとは違うのだ。
――薫るのら、あくまで柔らかな春。
吸い込む空気は和やかで、葉を滑る光もなめらかだった。それらほんの些細な違いが、決定的な皹を産む。
何に、と問うつもりは蒼夜にはなかった。
言うまでもない。日差しに濡れた朱緋に指を這わせ、吐息を付く。これから先、光に呑まれていく世界で、この葉はより鮮やかな翠に変じるだろう。夏の色に染まるだろう。
そうある事を願い、冬が過ぎたのだと思う。
――その前の秋を、ふと、思い馳せる。
それは致命的なまでに違い、蒼夜の記憶だった。
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