6/6
前へ
/6ページ
次へ
子供の頃は、宙が俺を呼ぶ声だけで、何を求めているのか、何を思っているのかが直感で分かった。 ある時は、お腹がすいた。 ある時は、体調が優れない。 ある時は、構ってほしい。 それはつい最近、中学までも続いていた。周りから「夫婦か」とからかわれていたのも、良い思い出となって俺の記憶に仕舞ってある。 なのに。 「これからどうすんだよ」 こんな言葉を口にするなんて、思ってもみなかった。俺の発した声は、しんとした空き教室に染み渡っていく。 ここには、宙と俺しかいない。 「どうもしない」 俺を笑って見ていた視線を外し、どこか遠くを見て、そう言った。今にも泣き出しそうな、辛く、苦しそうでいて、どこか幸福に包まれているような。 その顔は、少し遠い記憶に見覚えがあった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加