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「したよ……。兄貴は俺の事、何も分かってなかった。勉強ができるからって特別扱いされる俺と、勉強ができなくて自由に遊びに行けた兄貴……。兄貴が羨ましいと思うことなんか日常茶飯事だったよ。バカみたいに、はしゃぎ回って、バカみたいに笑って……… 俺は一切、そういう事はしてこなかったからね。母さんが出ていった時だって、俺を医大に行かせるためにバイト掛け持ちしてさ、正直 うざかった。いい子ちゃんを演じるのも飽きたんだよ。兄貴みたいに能天気に生きてりゃ今頃、こんな事してないだろうね。だから全部、兄貴のせいだよ。バカな兄貴のせいで、俺は 真面目を演じなきゃいけなかったんだ」
修也は早口で、まくし立てると 壊れたように笑いだした
隣に立つ女は そんな修也を奇怪な目で見つめながら
修也から離れる。
そして女は泣きながら口を開いた
「……修也、ごめん…… 私、修也がそんな人だなんて思わなかったから付き合ったんだけど… もう別れたい」
女の言葉に修也は馬鹿にした口振りで言い返す
「はぁ?俺達、付き合ってたっけ?」
「えっ、だって好きだって修也が私に言ったじゃない」
「あのさ、好きって言ったら付き合うことになんの?」
修也の言葉に女はヒートアップしたように泣き出した
これは、ヤバイかもな
周りの酔っ払いが野次馬のごとく見ていく
「とりあえず、帰れよ。こんな夜中に女が泣いてたら変な奴に連れてかれるぞ」
俺なりに気を使って
泣きじゃくる女にそう言った。
女は、ゆっくり頷くと瞳に涙を浮かばせて修也を見つめる
「ねぇ……最後に聞いていい?」
「は?なんだよ」
「私の事、これっぽっちも好きじゃなかった?」
「…当たり前だろ。お前なんか好きになるかよ」
「ひどい……… でも、これで何かスッキリした。こんな、ハッキリ言われたんだもん。諦めるしかないよね…… 短かったけど 今まで、ありがとう」
女はそう言うと
涙を浮かべたまま修也と俺に背を向けると小走りに去っていった。
目の前の修也は悪びれる様子もなく、平然とした態度を見せる
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