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「いやいやいや。そんな事あるはずないよ。うん。ないない。うん」
独り言が漏れるあたり、もう完全に迷子だった。今日はいつもよりヘッドフォンの調子が良く、一音一音が僕の視覚をも奪っていたのだ。
そんなありもしない言い訳をして、それがいかに滑稽な事か気づいた時には、既に頭上には無数の星が浮かび上がっていた。
一先ず迷子の件は保留とし、その場に腰を下ろした。
山道の途中らしいその場には、ゴツゴツと突き出た大岩がいくつもあり、その一つに僕は座り、空を仰いだ。
山道を下ればきっと僕の住む街の一角が見え、帰宅できるはず。
そう分かってはいるものの、先まで順調に動いていたはずの両足は今や小刻みに震え、動けない。
僕は夜が苦手だ。
夜が苦手というよりは、暗闇が苦手だった。
視界を閉ざされ、まるで断崖絶壁、絶望の淵に立たされたような、そんな気分に陥ってしまう事もしばしば。
今の僕の現状を知っていて、僕が暗闇を苦手としている事をも知っている人が仮にこの場にいれば、間違いなく言うだろう。……ガキだ、と。
ヘッドフォンを外した事で垂れ落ちた前髪が少し、鬱陶しい。
何か人とは違う個性がほしいと思っていた僕は、中学二年になるやすぐに髪を染めた。校則の緩い中学校で良かったとも思う。
けれど今は、闇の中でハシバミ色の明るい髪色は何も意味を持たない。
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