第一章 ライバル登場

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「くそ! 話が違うじゃないか!」  高松悟(たかまつさとる)は全速力で逃げていた。東郷都(とうきょうと)庁の環境改革室でともに働く部下、小越麻里(こごしまり)を引きつれ、ひたすら走る。 「追えー! 逃がすなっ!」 「小越君、こっちだ!」  黒服の男たちを少しでも撒くため、問答無用で麻里の八分袖をした白シャツの腕を引っ張った。座に細い裏路地へ隠れると、ばたばたと慌しい足音が近づいてくる。 「お前たちはあっちを探せ。女がいたからそう遠くへは行っていないはずだ」 「え? え?」  状況がわかっていないのか、麻里が戸惑った様子で表通りを覗き込んだ。 (中略)    第二章 理性と本能の間  気づいたときには、振り上げられた黒いスーツ姿の男の腕を掴んでいた。 「こいつに触るな」  本能を抑えきれず、狼の本質である耳と尻尾が体に現れ始める。このままでは人型が解かれ獣の姿に変身してしまいそうだ。狼谷満(かみやみつる)は怒りで沸騰しそうな頭でそんなことを思いながらも、心のどこかではたかが人間を守るために獣の姿になるはずがないと冷静に分析していた。  満は掴んでいる男の腕に力を加え、力任せに男を放り投げる。 「ぐはっ」  男は、受け身を取ることなく背中をコンクリートへ強かに打ち、そのまま意識を失ったようだった。 「何者だ!」  体格のいい味方の男が簡単に頭上を通過したことに怖じ気ついたのか、倒れた男よりも年長そうな男が青ざめた顔でこちらを見ている。  満は狩猟するときと同じように相手を見据えたまま、壮年の男を対処しようと足を踏み入れた。
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