好きでした、今でも好きです。

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 目を開けると、そこには古びた一軒家があった。 そうはいっても、大家族が暮らしているような建物ではない。サイズとしては普通程度の貸家を想像していただければ分かりやすいのではないかと思う。 長らく他人に貸していたその家は想像以上のボロ屋敷と化しており、ちょっと寄りかかればぐらりと斜めに傾いで倒壊しそうな雰囲気をぷんぷん臭わせていた。 ……本当に俺はここに住むのか。 現実に目を細めていると、管理をしていた本家の人がにっこり笑ってこちらに鍵を渡してくる。 「我が家には子どもがいないから、親代わりと思ってくれていいのよ。折角近くに住むことになったんだからなんでも頼ってくれて構わないわ」  赤銅色をした玄関の小さな鍵を手渡された俺は、なんとも言い難い表情で運び込まれてくる荷物を眺め、窓から見える桜の木に視線を走らせた。 大きく育ったその樹木はしっかりとした幹をしており、ひらり、はらりと美しい花びらを降らせている。好むと好まざるとに関わらず、俺の同居人というわけだ。  ……その時、俺は気付いてはならないものを見つけてしまう。 大きな窓にベタベタと貼りついた、人の手形のような痕跡だ。
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