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「大丈夫ですよ、俺、赤ん坊の頃から泣いたことがありませんから」
俺が軽く笑い飛ばすと、申し訳なさそうな顔をしていた伯母さんが、怖々と顔色を窺ってくる。
今言ったセリフは事実だ。自分は、薄っぺらい親子関係に支障をきたすほどに、生まれてこの方泣いた試しがない人種なのだ。
父も母も俺のことは不気味に思っていることだし、案外幽霊とも上手くやれるかもしれないじゃないか。
「何かあったら、本当に連絡してね? 伯母さんの家で泊めてあげることもできるからね?」
しつこく何度も繰り返した伯母さんが残した引っ越し蕎麦は、妙にパサパサして味気なかったのをよく覚えている。
そうして、俺はこの屋敷で一人になった。
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