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その次に幽霊が登場したのは、大学の入学式が終わった晩に三十八度の熱を出した時のことだった。
息苦しさに耐えながら、伯母さんに助けを呼ぶかどうか躊躇っていると、上がった体温でぼうっとしている俺の前に幽霊が呆れ顔で現れたのだ。
「……やあ、どうも」
「……お前、私が祟る前に死ぬつもりか?」
被っていた銀の血がなくなった幽霊少女の姿はけっこう綺麗だった。
胸元や腕、首などには刺された痕がくっきり残っていたけれど、俺が今まで出会った中で一等のべっぴんさんで、その美貌は損なわれてやいない。
「…………待て、どうして幽霊である私に縋りつくのだ。おかしかろう。お前、他に頼る身内はいないのか」
「……ごめん、つい人肌があったから」
「私の肌が温かいはずがなかろうに」
呆れた眼差しでこちらを見る幽霊は、深々とため息をついて俺の枕元に正座をした。和服の裾がヒラリとはだけ、片足だけ靴を履いていない。
「そなた、看病してくれるものは、いぬのか」
「いるような、いないような……」
「実の親はどうした」
「そこまで仲良くはないよ」
……そうか。と、幽霊のはずの彼女の表情が厳しくなった。
病気で弱っているせいだろうか。いつもなら口にしないはずの弱音を、俺は少女にうわ言で呟いていた。
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