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「要、まだいるのか?」
「うん、だめ?」
「そう、だめ。お前はもう帰れ」
「えー、何で。せっかく裕が入学したのにさ、お祝いぐらいしようよ」
「そんなもんいつでもできるだろ、俺はこいつに用があるの」
「なんだ、ふたりきりになりたいんだ?」
「勘違いするな、バカ。用があるのはこいつのおつむ。早速鍛えなきゃなんないんだよ」
「えーっ!」裕は声を上げた。
「鍛えって、まさか……」
「そう、そのまさか」
「今?」
「仕方ねえだろ、約束しちまったんだから」
「あ、さっき言ってた?」要が混ぜ返す。
「そう」
仁は、はあーっとため息をつく。
「優秀すぎるのも大変だねっ。じゃ、僕は退散しますか。裕、また今度ゆっくり話しようね。……winter」
「は?」
裕は、反射的に応じる。
「winter。覚えてて。ヒントはあれ。あの広告さ。また連絡するよ」
じゃあねー、と要は軽やかな足取りで去った。
しなやかで、まるでシャム猫かアビシニアンみたい。
初めて会った時も思った。
同じ猫でも我が家の猫とは大違いだわ。
いきなり抱きつくのはそろそろ止めてほしいけど。
そして、winter。
今は春なのにwinter。なんだろう??
首を傾げて見送る裕の頭を、小突く者がいる。
きっと振り返ると、仁が眼を半開きにして立っていた。
「winter、なるほどなあ……」
ちらりと窓の外へ目を向け、肩をそびやかす。そして、彼は手に持つファイルを掲げ、言った。
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