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「さっさと用は済ませるぞ!」
「えーっ! 嫌だよ!」
「同感だ」
「私、帰りたいんですけど」
「俺も帰りたい」
「利害一致したね、じゃあ……」
「時は金なり。思い立ったが吉日だ。こっち来い」
仁が引っ張って行った先は元いた慎一郎の研究室だ。この部屋の主は学長のお供で後を追い、出てしまった。今は誰もいない。
「私はそうは思わないなっ」
「ダメ。今日んところは腕試し。ほら!」
仁はファイルからプリントを1,2枚引き出す。
「先生がこれ持って来いって言うから何事かと思ったら、こーゆー事だったとはなあー」
ぶつぶつ言いながら仁は裕に手渡した。
あんたこそwinterだわ。
冬みたいに冷たい!
「ほれ、これ」
「何」
「プリント」
「わかってる」
「読め」
「え?」
「見てわかるだろ? うちの今年の入試問題。一度受けてるから難しくないはずだ。問1の長文。頭から声出して読め」
何で今日入学したばかりの学校の入試問題を前にしなきゃならないの。
が、仁からは四の五の言わず、言われた通りにしなさい、という有言無言の圧力がかかる。
何よ。やりゃいいんでしょ、わかったわよ!
試験問題は、どの科目も概ね、問1は、普通はひっかけでわざと難しく作成されているケースが大半だ、でも、今回は一番易しい設問が1問目に来た。
ふふん。見てなさい。
裕は頭から音読をした。
腕組みしている仁に向かって、誇らしげに。
三分の一も読み終わらない頃だろうか、無表情で聞いていた彼は天井に目をやり、椅子に上体を預け、うーんと唸り、眉間に皺を寄せて左手で額を抱えた。
そして。
「止め、止め。音読、止めーっ!!」
両手を広げ、ぶんぶんと車のワイパーのように振り回して仁は言う。
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