第1章

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「いいか、本放送はもう4月1日から始まってる。つまり今日から。さすがにラジオは今日は間に合わないだろうからそっちは明日からでいいとする。でも、今日渡す分はきっちり必ず進めておくんだ。土日も休むな。そしたら少し早めに4月分は終えられるだろ」 「全然、励みになんないんですけど。私が言いたいのはね、どちらか一方の番組を聴いておけば、ラジオもこっちもやんなくてもいいんじゃないか、ってことよ。だって同じことの繰り返しなんでしょ」 「大丈夫。ラジオ講座は毎年まったく新しい内容を全く同じコンセプトで作り直してるから。ダブりは一切ない。安心しろ」 「けど、中学からなんて……基礎の1年からだなんて……。やだよ、恥ずかしいよ。私、今日から大学生だよ?」 「自分が何ができて何ができてないか、わからん奴には判断できないだろうさ。今のお前がまさにそれ。一度スタートラインに立って見直してみるんだな。簡単なところから初めて、自分で自分の力を見極めてみろ」 「はいはいはあーい」 ふん。えらそーに。言われた通りやってやる義理はないもんね。 手元のくたびれかけたテキストをぱらぱらめくりつつ裕は心ここにない返事をする。 「前日やったことの確認をする。小テストみたいなもんだな。さすがに土日来いとは言わない。平日の朝、一限目が始まる1時間前に、扶桑館の尾上研究室に来い。必ずテキストを忘れるな」 「はあー?」 「だからテストする」 「テスト、キライーっ! やっと受験終わったところなのに、小テストって何ですか、罰ゲームですかっ!」 「渡しただけじゃ無責任もいいところだからな。それとも何か、お前、バイトか何か入れてるのか」 「今のところは予定ないけどっ!」 伯母の元から通うのだ、あまり心配かけたくないし、羽目も外せない。 しかし、一言目には「お金がない」二言目にも「お金がない」と唱和する両親だ、せめて教科書代ぐらい自分で何とかしたい……
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