第1章

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「ん? ああー」 仁が二の句を継ごうとした時だった。ピピピと、小鳥が鳴くような電子音が鳴ったのは。 「すまん、俺だ」仁は後ろポケットよりポケットベルを取り出す。 「わー、あんた、音切ってないの? マナー違反だよ、ここ図書館だし」 「悪うございましたね」 「誰から、って聞くのもヤボ? ガールフレンドからのコール?」 「思うなら聞くな」 「何人目の彼女かな?」 「教えない」 メッセージを確認する仁の表情が和む。柔らかい笑顔を見せたのを、功は見て見ないフリをする。 「俺、もう行くわ。今日は悪かったな」 「いえいえ、どういたしまして」 入り口に手をかけた仁へ、功は言った。 「良かったね、それ鳴ったのが尾上さんが出て行った後で」 「何の話だよ」 「ううん、いやね、もし尾上さんがいるところでベル鳴ったらどう言い訳するつもりだったんだろうーと、老婆心ながら」 「何だそれ」 仁は一笑に付す。 「お前、見かけは爺臭いのに、心の中はババア飼ってんのかよ、大きなお世話だ」 「ホントにそう?」 友人が部屋を出てしばらくたってから、功はポツリとつぶやいた。
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