第1章

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◇ ◇ ◇ ああ、もう、サイアク! 必要書類が入った、校章入りの真新しい紙袋を下げながら、裕は肩を怒らせて駅の改札を出た。 誰が悲しゅうて、大学生の身の上で、中学英語を復習せねばならんのだ。 やっぱり、言いつけ守る義理はないもんね。 改札を出た真ん前にある駅前の本屋の軒先には、語学講座のテキストがうず高く積み上がっていた。 裕は足元に目線を落とす。 爪先が尖った革の靴に慣れていなくて、さっきから足が痛い。爪先も踵も全部痛い。 知らないもん。だって、足が痛いんだもん。きっと靴擦れしてる。もう歩くのやだ。 早くおうちに帰りたい。 裕は本屋など存在しないかのように通り過ぎ、少しでも早く本屋から遠ざかりたかったが、足が痛くてままならない。のろのろと亀さんのような歩みで帰宅の途についた。
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