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近所や学校以外の世界に憧れる彼女に、運命の出会いが到来する。
制服姿で堂々と、いつものように大学へ向かったその日は、珍しく叔父に呼び出されていた。
普段は彼女が一方的に押し掛けるのだから、珍しいと言い切れた。
彼曰く、新しく本を作ったから、君にあげたいと言う。
その頃、慎一郎は本職以外に副業をいくつか持っていたが、そのうちの一つが執筆業だった。
年に1,2冊のペースで本を出し、時には様々な雑誌の連載も持った。今回出された本は学習雑誌の連載を1冊に再編集したもので、対象年齢が中学生向けの社会学入門。社会科が苦手な裕に向けて書かれ、彼女がわかるような内容で、連載中は好評を博した。大変平易な表現に、裕は「失礼しちゃう!」と表では言いつつ、内心嬉しくてたまらなかった。
私のために書いてくれたんだ。
知らず頬がほころんだ。
珍しく慎一郎の方から裕の自宅へ電話をかけてきたことも嬉しさを上塗りしてくれた。
「君の家に送るから……」
「郵便使うってこと?」
「もちろん。出版社から直接……」
「ちょっと待ったあ!」
郵便で直送などとんでもない。大好きな学校に行ける。叔父に会える。ただでえ、叔父の元へ度重なる訪問を父は喜んでいない。今回は立派な理由がある。それをみすみす失ってなるものか。
「私、取りに行くから。学校行くから。いい? 郵便に出さないで。わかってる?」
叔父は気圧されたように一瞬黙り、小さい声で「はい」とだけ答えた。
本が届く日を指折り数えて待った。そして訪れた約束の日。いつも以上に足取り軽く、「こんにちはー」と入った叔父の研究室には、主である慎一郎と、顔なじみの叔父の助手と、そして見かけない男子学生が4人いた。
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