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「おばあちゃんの死に目に会えなかった」
「良かったのよ、それで。母さん、孫達には見せたくなかったのね。でも……ねえ、加奈江」
「はい?」
「あの頃は今日を想像できなかったけど、もし生きてたら喜んだでしょうね。だって、裕ちゃんがうちに下宿するんだもの、きっと田舎引き払って同居するんだって言ってきかなかったと思うわ」
おばあちゃん。
裕は視線を落とす。
伯母と両親は、しんみりしながら仏間を眺めた。
喪が明けて間もない家は、まだほんのりと線香の香りが漂う。
帰ってきたご挨拶しなきゃ。
裕は仏間へ向かい、薄い水色をした線香を1本つまんだ。
一般的な線香とは違って爽やかなアロマのような香りだった。
この日、夕食には早すぎる時間に、ささやかながら小さな宴席が設けられた。普段の食卓に毛が生えた程度の豪華さだ。
しかしながら、道代伯母は、姪の好物を忘れずに用意した。
それは百合根入りの茶碗蒸し。
母の味付けとは少し違うけれど、どこかに懐かしさを感じる味だった。
裕は、もしかしたら、彼女が知らない母の母、祖母が教えたものなのかなと思った。
ささやかな宴はすぐに終わり、夜が更ける前に帰った両親の、背中は少しだけ小さく見えた。
ばいばいと見送ったらすぐに家に入ろうと思ったのに、見逃してはいけない気がして動けなかった。
「――さびしい?」道代は言う。
「ううん、別に」裕は即答する、ちょっとオーバーに。
「そうね、裕ちゃんはね。でも、あの子たちは、寂しがると思うな」
伯母の視線の先には、角を曲がってもう姿が見えない両親がいる。
少し、胸が痛む。
「だ、大丈夫だよ。猫もいるし、お弟子さんたちもひっきりなしに来るし」
「――だと思う?」
答えられない。
「いつか、あなたもわかる日が来るわ」
さあ、早く入んなさい、冷えるわよ、と道代に促されたがしばらく裕は動けなかった。

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