Calling

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 すっかり風の冷たくなった10月の中旬、一週間の勤めを終えて開放的な気分に浸ることの出来る金曜の夜。  東京都心のビル街を気分よく歩く紗結(さゆ)の携帯電話が鳴る。  「もしもし、和志(かずし)?」  同い年の恋人からの電話に、紗結は明るい声をあげた。  『…………』  意気揚々と電話に出た紗結は、聞こえてくるはずの和志の言葉が一向に出てこないことにやや拍子抜けした。  「和志、どうしたの? 今どこ?」  『…………紗結?』  「うん、私だけど」  『…………』  ──自分からかけてきたくせに、沈黙ばっか。どうしたんだろう?  「やだ、黙らないでよ。どうしたの? 今どこ? 何、なにかあったの??」  『……いや、』  電話口からは、低くかすれた和志の声が聞こえてくる。  『……何でもない』  「ほんとー?」  胸騒ぎを感じ出した紗結は、ようやく和志が発話し始めたことに幾許か安堵した。  口数は少ないが誠実で真面目で、繊細な一面もある和志は、時に何かを思い悩んでナーバスになることがある。  大学生の頃からの付き合いの中でそのことを承知済みの紗結は、明るい応対に努めたが、恋人の様子がどこかおかしいということに徐々に気付き始めた。
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