奉公

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奉公

「おっかさん…」 薄い煎餅布団の中、ごつごつと節くれだった指があかぎれだらけの少女の小さな手を握った。 眠れないのかとは聞かず、母は「安心おし」と答える。 「盆暮れには帰ってこられるんだ。それにお江戸で一、二を争う大店だ。腹一杯食べられる。」 貧しい農村では子供でも奉公に行くのが当たり前。 むしろ、食うや食わずの田舎にいるより、仕事がきつくても三食にありつけるだけ、まだましというものだろう。 「でも、あたい…」 母の指に力が入る。 それは不安がる娘を元気づけさせるというより、我が子を幼くして働きに出さねばならない親の悲しさを抑え込むため。 「大丈夫。旦那様も女将さんも評判のいい方だというし、お前は気立てもいいし、働き者だ。私の自慢の娘なんだ。気に入ってもらえないわけがない。」 自分にも言い聞かせるためなのだろう。母の静かな力強い言葉に、娘が握り返してきた。 「うん。頑張るね…」 そして、母は優しく声をかける。 我が子が明日を笑顔で迎えられるために… 「おやすみ。」
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