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草木の眠る丑三つ時。月明かりが照らす山中峠は静寂と言う言葉がよく似合っていた。
春の連休であるが、夕暮れに陽気が同行したらしく、夜空に輝く星々の下で草木が吐き出す空気は冷えて湿っていた。
虫たちすら息を潜めるこの時間に、二つのエキゾーストが鳴り響く。
暗闇を引き裂くような二つのヘッドライト。柿本の快音を響かせる真っ赤なS15顔のS14シルビアは、先行するクルマを追っていた。
「本当にノーマル!? 速すぎっ」
シルビアのステアリングを握る浅田美波(アサダ ミナミ)は、先行するクルマのテールを必死に追いかけていた。
自分のペースを最大限に生かしても、コーナーで消えるように抜けていく先行車にジリジリと離されていた。
フロントのグッドイヤーのRSスポーツはいい仕事をしてくれるが、リヤのピンソでは235とは言え無理は出来ない。
ブーストを落とさないように回転数を合わせて直線で詰めようとも、思うほど詰まらない。
だが、なんとか着いていける。それで精一杯。
その低く地を這うようなボディと丸目二灯のテール。鼻先が入ってからロールする姿は低重心の証拠。
美しくもグラマラスなラインにWRブルーマイカは良く映える。
「BRZってこんなに速かったんだ」
スバルBRZ。彼の操るスバルのFRは、まるで路面に吸い付くようにコーナーを曲がっていく。
彼の新たな愛車を駆る後ろ姿を少しでも見ていたい。そのために、全力でシルビアを操る。
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