EP.0 DBA-ZC6

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御堂俊哉(ミドウ トシヤ)はBRZから降りると、メガネの位置を直した。 少し癖っ毛気味の髪の毛は野暮ったくない程度まで短く纏め、フレームレスのメガネと切れ長の眼は知的な雰囲気を醸し出す。 身長は平均よりやや高め。体型も平均的で、年齢がようやく顔つきに追いついてきた、ラフに着込んだジャケットが妙に似合う23歳。 ボンネットのロックを外し、FA20を外気に触れさせる。溜まっていた熱が大気に解放され、ブロックを冷やし始める。 低くマウントされた水平対向四気筒はSR20と比べるとコンパクトに収まっており、突き詰められた搭載位置によってかなり鼻先の入りがよかった。 「どう? シェイクダウンは」 前髪をヘアピンで留めた美波が顔をのぞかせる。シルビアはBRZの横に止まり、低く唸るようにアイドリングをしていた。 ショートカットの髪の毛をダークブラウンに染め、ハッキリした目元とかわいらしさと大人らしさの同居する顔つき。 オレンジ色のツナギの袖を引き締まった腰に巻き付け、鍛えられていても女性らしい腕は黒いパーカーに包まれていた。 ドの付くノーマルなBRZもクーラントを循環させるためにアイドリングさせているが、タイミングチェーンやテンショナーのメカニカルノイズの方が煩く、エキゾーストは息を潜めてしまっている。 「予想以上だ。FCの時より乗りやすくて速い。パワーは今一つだけどな」 「そこはしょうがないね。過吸気でも付ける?」 美波の問いに俊哉は首を横に振った。 「今がビックリするくらいバランスが良いんだ。どうしようもなくなったときは付けるかも知れないが、今はそんなことはないな」 「ふぅん。相当、出来が良いんだね」 FA20のぶるぶる震えるファンベルトのテンショナーをぼうと眺めていると、俊哉のスマホがNE-YOのBecause of youを歌い始めた。 「電話?」 「ああ。姉貴からだ」 画面を操作して電話に出た。そういえば、今日は帰ってくる日だったな。
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