ep.6 新しさと懐かしさ

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先輩を一言で言えば自由で規格外。勉強は並だったけど、身体を動かすこと、そして乗り物に関することには飛び抜けていたわ。 高校の時の制服って、ブラウス、ネクタイ、ブレザー、プリーツのスカートの普通の制服なんだけど、あの日本人離れしたスタイルと切れ長の眼にクールな顔付きだからコスプレにしか見えなかった。 噂だと、告白された数は二十を下らないらしいけど、全て笑顔で断ったって。理由は縛られたくないかららしい。 自転車部でもエースみたいな存在だったけど、チームで走るロードレースだからチームワークは大事にしていて、私たちのペースにいつも合わせてくれていたの。 女子部員が少なかったのもあるけど、新入部員の私もチームに加わって先輩と走ったわ。 練習の時、こっちが息が上がっているときに先輩は先頭で引っ張ってくれてね。本当は勝負をかけるときのスプリンターだから、私たちが引っ張らなきゃいけないのにも関わらず。 体力が戻った頃を見計らって先頭を交代して貰うんだけど、息一つあげずにふざけ半分でよろしく~って譲るのよ。直後の上りでスプリントかけて誰も追いつけないし、下りも左端のラインを崩さずくだっていく。下手すれば白線の上をなぞってダウンヒルしていたこともあったわ。滑りやすいからバンクさせるのも勇気居るのに。 それで、先輩も責めすぎてこけちゃうんだけど、受け身の取り方が鮮やかの一言。軽い擦り傷だけで大きな怪我は無かったわ。先輩の同級生に聞いても、転んだことは何度もあったけど、大きな怪我は一度も無いって。 思えば、先輩のスタントも受け身の取り方が巧いから出来るのかなって今ならそう思うわ。 地区予選でハングオンして、インターハイで盛大にこけてロードバイク壊してから、卒業して雑誌モデルになって、ハリウッドの女優になって、全く性格が変わらずここで純粋な笑顔を浮かべてカフェオレを飲む。巧く言葉で表現できないけど、感慨深いわね。 前回合ったのは大学三年の今の時期かしら。デモカーみたいなランエボでウチの実家に乗り付けて、ドライブ行こうよって十和田湖まで一緒に。今のS2000を父から譲って貰ってから初のドライブだったわ。 高校時代みたいに前で引っ張ってくれて。初めて走る道だったけど、気持ちよく走れたわ。それからかしら。クルマのツーリングが好きになったのは。
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