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俊哉はおもむろにインタークーラーの裏に手を入れ、スロットルを直接操作する。
フォンと軽く回る。だがマフラーから聞こえてくる失火の音。水蒸気と排ガスが充満する。
「しかし本当に良いのか? 確かにデモカー作りは通常業務と並行しなきゃならない作業だからキツいし、社長も残業代を精算しなきゃならない。無給でテストドライバーしてくれるだけじゃ無く、こんな面倒なことまで押しつけてしまう感じでな」
俊哉は頭を上げた。
「ええ。むしろ、場所を貸してくれて、さらにパーツまで工面して頂いてありがたく感じています」
「わかった。社長も従業員が残業しない分、デモカーに掛かる経費が落ちたって喜んでいたよ。しかし、笑えるよな。自分の所有しているクルマじゃないのに金をかけようとしてたんだからな」
柳瀬の言葉に苦笑いした。美波がBRZのトランクから自分の工具箱を引っ張り出してくる。
「ま、御堂弟のFCのお陰でロータリーのノウハウが出来て、ロータリーの客が出来て稼がせて貰ってる。ウィンウィンの関係って貴重だと思うよ」
頑張ってくれ、と言って手を振り、柳瀬はガレージを後にした。その指先にはMAZDAと書かれたFCのメインキーがあった。
「準備できたよ」
エンジンを止めてキーを抜いた。二つ付いているキーの内、一つを美波に渡した。
「こいつはそれぞれで持っていよう」
二人は各々の愛車のキーのキーホルダーに新たにFCのキーを足した。供にフクロウのマスコットが付いたお揃いのキーホルダー。
「何からやる?」
「プラグからチェックだ。レンチは21の方」
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