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目を開けるとそこには鏡があった。
私の背丈よりも大きな壁によたれかかった長細い鏡だった。
私はその表面を指でなぞった。けれども、それは触れたところで独特のひんやりとした冷たい痛覚をさすこともなく、かと言って暖かくも、固くも柔くもなかった。
まったくの無だった。そこに何もないのに、幻覚を見せられているような気がした。
目を凝らす。そうすれば消えて無くなる雲にも思えた。鏡はそんな目で見つめてもいなくなったりしない。白い壁を背もたれにそれは一定の存在感を放っていた。
私は鏡に問いかけることにした。
「ねえ、鏡さん。貴方は魔法の鏡なのですか」
答えのない問いはもちろん返す声は無く、返そうとすれば声を発するしかなかった。
「ええ、もちろん。私は何でも幸せを映す鏡です」
その声の主は、もちろん私しか居なかった。鏡から声が出るわけがない。
そんな魔法はこの世界には存在しないのだから。
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