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「ねえ、鏡さん。幸せって何なのかなあ」  そういうと、鏡は「それは皆の笑顔とか言うのだろう。ふーん、じゃあ、笑顔の出来ない人は幸せじゃないのかい?」    いつのまにかその偽物の演者は配役をごちゃまぜにしてしまっていた。  鏡役も相手役もすべて私で出来た私だけの劇。    観客も誰も動員できない。只のひとりあそび。最後の最後で一人ぼっちになった私の何か。  一人で騒いで何が楽しいのだろう。って思ってくれる人もいないから自分で勝手に思うだけ。 「笑顔が出来ないのは、顔が動かないからだよ。唇が歌を口ずさめないからさ。  誰かを見つめる目も、もう開いてはくれないからさ。そんなものを作る力も残ってないよ」  魔法の鏡は幸せを映すことにしておく。  幸せを映すってことは、同時に『鏡に映るものはすべて幸せになれる』ってことなんだ。   なら私は?  視界の端、公園の前に出来た人だかりが鏡に写り込んでいた。  多分あの真ん中に私がいる。  トラックに跳ねられた、ただの残骸がそこにはいる。  じゃあ、鏡の前の私は?   幸せものを映す鏡どころか、すべての鏡に映らなくなった概念的な私は?  答えなんかとっくに出ていた。  もう二度と鏡を見ることさえない私には、幸せになる資格なんかないのだ。  鏡は本当は只の物質なんだ。化粧を直す時、歯をみがく時、私たちはそれらを覗き込む。    それはなんでも映すから。  道を歩く親子連れも男性も、生きとし生けるものすべてを映すから。  それを皆が愛する。    誰かが公園に置いていったくすんだ鏡でさえ、その役目を果たす。  それはきっと人に付随する幸せだって綺麗に映していく。  やっと気がついた。  生きている限り、不幸もあるけど、幸福だってもっと作っていけるんだから。  けれどもそれは、二度とそれに触れることも、姿が映すこともない私は、もう関係の無いお話。    
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