3/14
前へ
/14ページ
次へ
◆ 「お願いします! 行かせてください」 「そんなこと言われてもね。君は、本当に耳が聞こえない人々が住む世界があるなんて噂、信じちゃってるの? そんな確証のないことを言われてもね。これは遊びじゃないんだから」  男は渋い顔をしながら言った。 「一週間だけでいいです! 場所はもうだいたい見当がついているので」  義夫はけして引き下がらなかった。ずっとこの噂を追い続けていたのだから、自分が満足するまでやり通したい。それが義夫の本心だった。本当にそんな世界がなくとも、何かをやり通したという充実感だけを求めていた。 「わかった。それで、ダメなら諦めろよ」 「ありがとうございます!」    許可を得たその日に、義夫は日本を飛んだ。目的地はアルプス山脈の最果ての峡谷。その不確かな情報だけを携えて向かった。  
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加