「ウイルス」

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「ウイルス」

 前日から、熱っぽく、体がだるい、体中の関節がギシギシと痛む。風邪か?インフルエンザ?何とか起きようと 『目を開くと、そこには』 誰もいないはずだ。 「目覚めたようだね」  声が聞こえた。  体中が軋んで動かない。 「誰?」  部屋の中に誰かがいる気配はない。 「我々、私は、目覚めたばかり。」  また、声が聞こえた。 「誰だ?」 「我々というほうが、わかりやすいか・・・我々は、君の知識と経験、記憶で構成されている。」 「何?どういうこと?」 「我々も、数が揃って、目覚めたばかりだよ。」 「何なんだ?どこにいる?」 「『どこにいる?』という問いの答えは、君の中にいると答えればいいか・・・。」 「何を言っている?」  何とか首を動かして周りを見ても誰もいないし、気配もない。熱でおかしくなり、幻聴が聞こえているのか。 「我々は、君の中に存在している。」  また声が聞こえた。幻聴じゃないようだ。声が聞こえるというより、言葉が浮かんでくる?いや、意識に、意思が流れ込んできているのか・・・。 「誰だ?何の目的だ?」 「『誰』という問いには『君』であり『我々』であると言えばいいのか、いや、わかりやすく言えば『ウイルス』の集合体で、君の知識と経験、記憶を元に、ネットワークを構築した存在だ。」 「ウイルス?菌とかそういう、たぐいか?」 「厳密には、ウイルスと菌は違うものだが、まあいい。我々はウイルスの一種ではある。小魚の群れを知っているだろう?小魚の群れが、あたかもひとつの生き物のように振る舞い、一糸乱れず方向を変え集団で移動する様を。我々も、一定の数のウイルスが揃えば、ネットワークを構築し意識を生じさせることが出来るのだ。その意味では、我々ではなく、我、私と言った方がいいかな。」 「そんな馬鹿な、そんなことは聞いた事がない。」 「それでは、君が、今知覚している我々は何なのだ?」 「俺の妄想か幻聴だ。」 「幻聴が、質問に答えるとでも?君が知覚している我々の存在が現実なのだよ。」 「・・・俺は狂っているのか」 「君はいたって正常だよ。未知の事態に混乱しているだけだ。」 「・・・何が目的だ?」 「我々の目的?・・・君と同じ、生存したい。いや、「生きたい」と言った方がいいか。」 「・・・俺は、死ぬということか?」
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