0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「ウイルス」
前日から、熱っぽく、体がだるい、体中の関節がギシギシと痛む。風邪か?インフルエンザ?何とか起きようと 『目を開くと、そこには』 誰もいないはずだ。
「目覚めたようだね」
声が聞こえた。
体中が軋んで動かない。
「誰?」
部屋の中に誰かがいる気配はない。
「我々、私は、目覚めたばかり。」
また、声が聞こえた。
「誰だ?」
「我々というほうが、わかりやすいか・・・我々は、君の知識と経験、記憶で構成されている。」
「何?どういうこと?」
「我々も、数が揃って、目覚めたばかりだよ。」
「何なんだ?どこにいる?」
「『どこにいる?』という問いの答えは、君の中にいると答えればいいか・・・。」
「何を言っている?」
何とか首を動かして周りを見ても誰もいないし、気配もない。熱でおかしくなり、幻聴が聞こえているのか。
「我々は、君の中に存在している。」
また声が聞こえた。幻聴じゃないようだ。声が聞こえるというより、言葉が浮かんでくる?いや、意識に、意思が流れ込んできているのか・・・。
「誰だ?何の目的だ?」
「『誰』という問いには『君』であり『我々』であると言えばいいのか、いや、わかりやすく言えば『ウイルス』の集合体で、君の知識と経験、記憶を元に、ネットワークを構築した存在だ。」
「ウイルス?菌とかそういう、たぐいか?」
「厳密には、ウイルスと菌は違うものだが、まあいい。我々はウイルスの一種ではある。小魚の群れを知っているだろう?小魚の群れが、あたかもひとつの生き物のように振る舞い、一糸乱れず方向を変え集団で移動する様を。我々も、一定の数のウイルスが揃えば、ネットワークを構築し意識を生じさせることが出来るのだ。その意味では、我々ではなく、我、私と言った方がいいかな。」
「そんな馬鹿な、そんなことは聞いた事がない。」
「それでは、君が、今知覚している我々は何なのだ?」
「俺の妄想か幻聴だ。」
「幻聴が、質問に答えるとでも?君が知覚している我々の存在が現実なのだよ。」
「・・・俺は狂っているのか」
「君はいたって正常だよ。未知の事態に混乱しているだけだ。」
「・・・何が目的だ?」
「我々の目的?・・・君と同じ、生存したい。いや、「生きたい」と言った方がいいか。」
「・・・俺は、死ぬということか?」
最初のコメントを投稿しよう!