4人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「っぐ!!」
もう1発、腹に足蹴りをくらう。
熱さと痛さに、思考がうまく回らない。
「ユ……」
漆黒に塗られた髪に触れ、咄嗟にユザの名前を呼んでしまいたくなった。私を助けて、と。
それを抑え、なんとか留まる。
今は、言うべきじゃない。
ーー妃の1人が悪魔と契約しているなんて。
しかもユザはただの悪魔じゃない。
魔導師が魔法を使うのとはレベルも格も違う。
この世界のごく僅か少数民族の魔導師達でもユザを呼ぶことはできない。
そんな悪魔、見れば誰だって「ヤバイやつ」くらいなのはわかる。
それに、ユザを使う時はあの皇帝ーーザクロと対峙した時だ。
意識がぼわっとする中で、頭の中に落ち着いた声が響く。
(目の前にいる妃様以外にも攻撃しそうな妃様が何人か見えるよ。
ここは早く逃げな)
「……っ!」
残った力でなんとか立ち上がり、入ってきた扉に手をかける。
「第13妃」
「……!」
低い声で呼び止めたのはこの国を支配する皇帝ーーザクロ。
「今晩、お前が夜の相手だ」
一瞬、その場がざわめく。
ざわめきが遠くに聞こえる。
振り向けない。ドアノブを見つめたままの私に、重ねて言う。
「第13妃を今夜俺のものとする。
せいぜい愉しませてくれるといいがな。
ーーまさか、逃げようだなんて思うなよ?お前は代償として差し出された物だ。まあお前を差し出したやつらなど関係ないのであれば逃げればいい」
私が逃げないと知ってて言うのだがら、本当に性格が悪い。
「……承知しております、皇帝様」
ああ。否定すら許されない。
私の人生今日で本当に終わりだ。身体はコイツのものになるんだ。
私は振り返ることをせず扉を開けて走り出した。
最初のコメントを投稿しよう!