君の名前を呼ばせて

10/14
前へ
/14ページ
次へ
 アラームが鳴った。 目が覚めると、ミハイルの寝起きの顔があった。 「おはよう、ローザ」 ミハイルは恋人のおでこにキスをすると、ゆるゆると座った。 「夢を見たの」 ローザは寝ぼけたようにつぶやいた。 「どんな?」 「旅行に行った夢」 「楽しかった?」 「うん、楽しかった」 ミハイルは笑って、恋人にシーツをかけなおすと、ベッドを出た。 「ね、私フランスに行きたい」 ミハイルは寂しそうに首を振った。 「ダメだ…僕はイギリスを出ることはできないんだ…ごめん、ローザ」 「…そう…] 理由を聞きかけたが、止めた。 またその理由までも、情報部に報告しなければならなくなるだろう…。  アダムスは事務所の席に座って、エレンからの電話を切った。 ログノフが博士を追ってバーミンガムに行ったという報告だった。 エレンは、昨日のうちに、その話を聞いていた。 今更責めても仕方ないが、どうしてすぐに連絡をよこさなかったのかと怒りたい。もうログノフはバーミンガムに向かった後で、向こうで捕まえられるとは思えないが、行くしかない。 電話が終わると、ため息をついて、目に入った部下を呼んだ。 「ジャック!」 「はい」 ジャックは急いでアダムスのもとへ飛んできた。 「バーミンガムに行ってこい」 「はい」 「今すぐだ」 「え?あの、でも…今イオーノフの知り合いだった男の居場所がわかるかどうかのとこでして…」 「どこにいるんだ、そいつは…」 「多分、スイスです」 そこへ部長が入って来た。いつもノックをしない。 「イオーノフの件だが…」 「ああ、」 「イギリスでイオーノフを探していたアメリカ人が、二日前にスイスに入ったらしい。君、何か聞いているか?スイスだ…」 「いえ…、」 アダムスはそう言いながらジャックを見た。 ジャックもアダムスを穴が開くくらい見ていた。 「ログノフは、今朝バーミンガムに探し物をしに出かけたようですが…」 部長は、何か考えているかのようにしばらく黙った。 ジャックが口を挟んだ。 「あの、博士の知り合いがスイスにいるようなんですが…大学時代の研究室の仲間で…」 「ふーん」 部長が何も言わない時は、何か引っ掛かっている時だ。  
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加