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ホテルの一室に、ログノフはいた。
ベルが鳴った。
除き穴から見知った男の顔を見た。
「やぁ」
男は愛想笑いを浮かべて部屋に入ってきた。
「アメリカ人がスイスに入ったらしい。この情報はイギリス経由だ。このままだとまずい…」
ログノフは少し驚いたように黙りこんだ。
「お前は、事が起きる前に本国に戻った方が良さそうだ。今はあいつら、お前を泳がせているが、もし真相が分かれば捕まる」
男は真っ直ぐにミハイルを見つめたまま言葉を続けた。
「そういえば、彼女の誕生日、もうすぐだったな…」
男は少し笑って、ポケットから小さな箱を出した。
そしてログノフの手の中にその箱を押し込んだ。
「ロシアの最高のダイヤが散りばめてある、喜ぶだろう…」
ミハイルは思ったより早く帰ってきた。
真夜中に帰宅したミハイルは、少し青ざめて見えた。
「どうしたの?何だか疲れた顔してる」
ローザはミハイルの頬を両手で包んだ。
「大丈夫だ」
ミハイルは少し笑って恋人を抱き寄せ、キスをした。
「そうだ、君にプレゼントがあるんだ」
ミハイルはソファーにローザを座らせると、ポケットから箱を出した。
「何?」
「取り寄せたんだ。ソ連のダイヤ。小さいけど、きっと君に似合う」
ローザが箱を開けると、中にはペンダントが入っていた。
プラチナの薔薇の花びらには、小さなダイヤが水滴のように散りばめられていた。
とても綺麗で、触れるのも勿体無いくらいだ。
「ミハイル…」
ローザは驚いたように恋人の顔を見上げた。
涙が出た。
もう、耐えられない。ミハイルの愛情が、ローザを責める。
「ミハイル、私、こんなもの…もらう資格なんてホントはないの…私…」
ミハイルは、ローザの頬を伝う涙を指で拭った。
「ローザ、泣かないで」
「だって、私…」
「言っただろ、君はすぐに感情的になる。僕は君のそういうところも好きなんだけどね…時には…冷静にならなきゃ…ね…」
ミハイルは、いつものようにローザの体を抱き締めると、背中を優しくたたいた。
まるで母親が子供をあやしているかのようだ。
「私、」
「ローザ、黙って…」
そしてミハイルはローザの唇にキスをすると、体中に優しく触れた。
涙が止めどなく流れる。
ローザはミハイルの手を振り払うと、急ぐようにバスルームに消えた。
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