君の名前を呼ばせて

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   それからすぐにソ連は崩壊し、同じくしてエレンも仕事を辞めた。 あれから10年以上が経ち、エレンは一度結婚したが、子供を生んですぐに離婚してしまった。 いつでも何か辛いことがあると、ふとミハイルを思い出した。 おかしなことに、エレンは辛い時間をミハイルに支えられていたのだ。 今なら分かる。 エレンは、罪悪感の陰で、ミハイルを愛していた。  時々、美術展があると足を運んだ。 何となく落ち着くからだ。彼の空気を思い出すからかもしれない。  ある日、娘のケイトを連れて、買い物に出掛けた。 通りがった小さな絵画展の前で、ケイトがエレンの手を引っ張った。 「ママだ」 大きな玄関口のずっと奥に、その絵はあった。 一瞬、時間が止まった。 そこには、薄い小花柄の真っ白なシーツに包まれた女性がいた。 髪はクチャクチャで、起き抜けのぼんやりとした、だがとても綺麗な表情で優しく微笑んでいる。 エレンは、呆然と、その場に引き付けられたかのように、立ち尽くした。 エレンだ。 若い頃のエレンだ。 あのシーツも、エレンが気に入って買って来たものだ。 「あれ、ママだ、ね?」 「うん、」 それ以上の言葉は出ない。 タイトルがあった。 『エレン、』。
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