君の名前を呼ばせて

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 エレンはまだ駆け出しで、慣れない任務の途中で、ログノフを知った。  ソ連の科学者、イオーノフ博士が研究中の科学兵器を持って国外に逃亡した、という情報があらゆる国に流れた。 各国がイオーノフ博士を目の色を変えて探している中、イギリスは重要な情報をつかんだ。 ソ連がイギリスで探し物をしている…。 その頃、やってきたのがログノフだった。  毎日のようにアダムスに連れられ、ログノフを監視していたが、ある日、プライベートな時間にそれは起きた。 初めて入ったカウンターバーで1人飲んでいると、話しかけてきた男がいた。 「1人?ここ、座ってもいいかな?」 エレンはよくナンパされる。決して女性らしいコーディネートではなかったが、綺麗な顔立ちをしていた。 エレンは自分の職業についてよく分かっていたし、それ相応の分別は持っていた。知らない男について行くほど、バカでは無い。 だが、その時は違った。 ログノフが目の前に立っていた。 一瞬、頭が真っ白になった。 「え…ええ…」 咄嗟に出た言葉がそれだった。 「この前もバーで、見かけた」 それが、ログノフに話しかけようと思わせた理由らしい。 監視していた時に、見られていたのだ。 諜報部員としては失格だが、そのことは、エレンをログノフの一番近くに置く最良のきっかけになった。 「名前、聞いてもいいかな?」 ログノフは人懐っこい可愛い笑顔で聞いた。 「ローザ…」 咄嗟に出た名前が、子供の頃人形に付けた名前だった。  それから何回かデートを重ね、ログノフはローザに愛を打ち明けた。  アダムスは、ログノフのエレンに対する誘いに大いに乗った。 エレンも最初は、それが国の為になるならと、希望に満ちていた。ログノフから情報を引き出し、他の国を出し抜くチャンスを、自分が持っているのだ。 頭にあるのはその思いだけで、その為には自分のプライベートや良心などどうでも良かった。 ローザは、偽りの愛情で答えた。
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