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アダムスは、ローザ・ブラウン名義でアパートを借り、策略以上の結果を出した。
ログノフはローザのアパートで、ほぼ同居しているも同然の生活を送っている。
そして、何より、ログノフはローザに
「実は、俺はソ連の諜報部員なんだ」
と、打ち明けたことが最大の収穫になった。
その時のエレンは、かなり動揺した。
知っていたことを悟られまいと演技をしなければならなかったし、何より彼に、ほんの少しの罪悪感が芽生えたからだ。
その頃からだ。エレンが彼に触れたくないと思い始めたのは。
そして日に日に、ただ、罪悪感だけがフロル・ログノフに対する気持ちの全てになっていった。
彼は純粋に「ローザ」を愛しているのだと感じ取れたし、嘘をつき続ける相手にするには優しすぎた。
エレンは、アダムスとのそっけないランチの後、一人で何をすることもなくソーホーをブラブラした。
あまり家に帰りたくない。
ログノフの顔を見たくないのだ。
彼の愛情は、今のエレンには辛いだけで、ひどい自己嫌悪に陥りもする。
今日はログノフは休みで、家で絵を描いているはずだ。
夕方からのバーのアルバイトまで外で時間を潰し、バイトが終わると友人と飲みに行き、夜中に帰る。
そうすれば、朝までミハイルの顔を見なくて済む。
ただでさえ、生活のリズムが違うのであまり会わない。その上、わざと家に帰らない。
毎朝ログノフがセットしたアラームで一度目が覚め、その時に優しいキスを受けるだけだ。
それだけが今の二人をつなぐ時間なのだ。
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