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「仕事なんだ」
ログノフはローザの後を付いてきた。
まさか怒っているとでも思ったのだろうか。
だが、口調は柔らかい。言い訳をしている風にも聞こえない。
「博士が、バーミンガムにある大学に潜伏しているかもしれないんだ」
ローザは振り返った。
「仕事の話をしないで!」
少しきつい口調に、ミハイルは驚いたように顔を見つめた。
「疲れてるの。何も聞きたくない」
ローザは首を振って、ベッドに座り込んだ。
「ローザ…」
ミハイルは隣に座ると、心配そうに顔を覗き込んだ。
「疲れてるの…ごめんなさい…」
そんな話はもうこれ以上聞きたくない。
自分が聞いたことは全て情報部に筒抜けなのだ。
「ローザ…」
ミハイルは、大きな手のひらでローザの頭を抱き寄せると、その髪に頬を寄せた。
「ローザ、仕事から帰ったら、旅行にでも行こう。気晴らしになる」
ローザはミハイルの顔を見上げた。
「旅行?」
「ああ、」
「…いいわね…」
ミハイルはとても大事そうにローザの髪を撫でた。
「僕たちのことを誰も知らないところに行こう…」
きっとミハイルも疲れているのだ…そう思った。
「うん…」
ローザは笑った。
時々、本当にこの人が恋人なら、どんなに平和なのだろうと思うことがある。
もし、自分が嘘さえついていなかったら、もしかしたら彼に、また別の感情を持てたのかもしれない。
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