優しい彼の声

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「――さん、――さん」 誰かが私を呼ぶ声、とても優しく語りかけてくる。 「――さん」 はいと答える。 「良かった、思考は無事のようですね」 まだぼんやりとしているけど、最後の記憶から自分は事故にあったのだと理解していた。 しかし、声は聞こえるけどココはどこだろう。 「ここは病院です、あなたは事故に遭われて意識を失っていたのですよ」 ああやっぱりかと納得する。 事故、怖い言葉が改めて私を襲う、どのくらいの怪我をしたのだろう。 そうなのだ、先ほどから声は聞こえるけど何も見えない、そして体が動かせないのだ。 「落ち着いて聞いて下さいね、あなたは事故に遭われて今動けない状態なのです」 ハンマーで殴られるとは良く聞く表現だが、今まさに私は殴られたような感覚に襲われた。 まさか自分が、冗談でしょと何度も疑いたくなる、しかし実際見えないし動けない。 涙を流している筈なのに、涙が頬を伝わる感触さえ無いのだ。 「でも安心してください、きっと見えるようになるし、また動けますから」 今はこの人、たぶん医者だろう、頼れるのは彼だけだ……。
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